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脱炭素とカーボンニュートラルに不可欠な資源確保に向けた欧州発の「廃棄物ナショナリズム」

2021年11月17日、欧州委員会は欧州廃棄物輸送規則の改定案を正式に開示した。
(Proposal for a REGULATION OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL on shipments of waste and amending Regulations (EU) No 1257/2013 and (EU) No 2020/1056)

この改定案が欧州の最大のポイントは、EUから非OECD諸国への廃棄物の輸出に関する部分にある。逆にEU諸国内での廃棄物輸送の手続きはデジタル化され大幅に緩和される事になる。
既に一定のレベルで報道されており、この改定案が、中間処理でリサイクルされた鉄・非鉄スクラップのEUからの輸出を全面禁止するものではない、という事は確かである。
OECD加盟国は現在38ヵ国だが、22か国はEU域内にあり、EU域外の国はわずか16ヵ国しかない。その16か国も、日本、イギリス、アメリカ、カナダ、メキシコ、オーストラリア、ニュージーランド等の先進国が主体であり、スクラップを大量に輸入する東南・南アジアの国々やトルコは含まれていない。

この提案が規則として施行された場合、非OECD諸国に今まで通りリサイクルされたスクラップを輸出する場合には、有害物質が含まれない事、輸入国で持続可能な方法で管理できることを証明する事、そして輸入国が公式に要請を行う事、が基本条件になる。その上で、EUから輸出できる国と廃棄物の種類のリストが作成される。

実は、問題の本質はこの条件ではない。まず、「廃棄物」の定義(範疇)そのものに、中間処理によりリサイクルされたスクラップが入っている事である。そして、実際に輸出できる国と廃棄物の種類のリストが作成されるにあたり、廃棄物に有害物質が無く、どの程度の「純度」のものであるのかを定める事になる。この「程度」の基準が輸入国で高く、かつ安定してなければならない、という事が問題である。

上記の欧州廃棄物輸送規則案が出るおよそ1カ月前の2021年10月20日には、欧州委員会は、委員会規則として(EU) 2021/1840を発行している。
この規則は、「特定の廃棄物輸出に関する規則」(EC)No 1418/2007の付属書III及び欧州議会及び欧州理事会規則である「OECD規制が適用されない特定の国への国境を越えた廃棄物の管理に関する規則」(EC) No 1013/2006の付属書IIIAを、それぞれ改定したものである。

実は、この改定((EU) 2021/1840)により、欧州から中国向けの非鉄スクラップ輸出が急減した。
それぞれの付属書は、国毎に輸入するスクラップ(定義はWaste:廃棄物)を定義しており、(a)輸出禁止なもの、(b)輸出前に申告・許可が必要なもの、(c)規制がないもの、(d)輸入国側での規制があるもの、と明確に分けている。例えば、香港・中国向けの改定リストには、銅(屑)や鉄(屑)は(b)のリストに入っており、欧州内の輸出業者は、輸出前に申告又は許可を得れば、輸出が可能である。しかし、中国自体の例えば銅スクラップの受け入れ基準が非常に「高純度」な為、事前申請や許可を得るのが困難かつ基準に満たない場合の将来のリスクを考慮して、EUの輸出業者が輸出を行わないという事態が発生している。同様の事が欧州廃棄物輸送規則の改定で起こる可能性は低くないと思われる。

これら一連の流れから、BIR(Bureau of International Recycling)の鉄部門プレジデントでありドイツのリサイクル大手企業TSRのCOOでもあるデニス・ルーター氏(Denis Reuter)は、現状で改定欧州廃棄物輸送規則が施行された場合、メタル・スクラップをEUから非OECD諸国に輸出する事は大変困難になるだろうとの見解を述べている。

解説
この改定案がそのまま規制化された場合、我々が通常取り扱う中間処理を経た「スクラップ=リサイクル・マテリアル」を輸送に際し「廃棄物」の範疇に入れる事で、鉄、非鉄、プラスチック、紙等のリサイクル・マテリアルの全てに「廃棄物」の規制や法律を適用できる事になる。現在のように、スクラップと廃棄物の定義を分ける事により、より高付加価値のスクラップだけが海外との競争にさらされ、低付加価値の廃棄物だけがEU域内に残るというシナリオを回避できる可能性が高くなるであろう。建前上、自由で公正な貿易を推進する欧州政府はスクラップ輸出を全面禁止はできず、リサイクル・マテリアルを廃棄物とする事で公正さを保つ事ができるのである。
2021年1月1日からバーゼル条約附属書の改正が施行された事もあり、低付加価値の廃棄物だけがEU域内に残りやすいという環境もある。
EU委員会は、欧州廃棄物輸送規則の改定案を開示するにあたり、2020年にEUが約3,300万トンの廃棄物を輸出し、逆に約1,600万トンを輸入した事は持続可能性の観点からもロスがあり、域内でそれらを活かすべきという事を伝えている。また、EU域内にはそれらを活用できるインフラが整っている事を強調している。
「スクラップを廃棄物と定義する事」ではじまった、「廃棄物ナショナリズム」は、すなわち資源ナショナリズムに通ずる動きと見る事も可能になって来るのではないか。
現在、欧州政府はサーキュラーエコノミーによる資源循環の切り札として拡大製造者責任の適用商品の拡大を活発に議論しており、同様の動きは米国でも既に始まっている。
2018年、脱炭素やサーキュラーエコノミー政策が欧州で活発化した時に、アジアではそれらが国際的に波及する事を前提としていなかった。
欧州発の「廃棄物ナショナリズム」は、サーキュラーエコノミーの重要な要素と考えられ、脱炭素社会、あるいは企業のカーボンニュートラル実現に向け必要な金属や都市由来の資源確保には必要不可欠であるとの背景から来ていると思われる。
欧州廃棄物輸送規則の改定は、そのスタートに過ぎない事を理解する必要があるのではなないか。
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