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特別コラム:気候変動財務開示情報への致命的な対応の遅れ

各国政府がカーボンニュートラルに向けたロードマップや段階的な数値目標を定めて規制を強化している中で、事業分野や市場規模と関係無く、将来一定規模の多くの企業が対応に迫られるものとして、「持続可能性」と「気候変動」の情報を財務開示情報に含める事が挙げられる。

欧米では2022年に急速に規制化が進んでいるが、実態を把握していない事が多い。
この大変革は、企業経営者のみならず、経理、財務、経営企画、日々の業務を行う営業管理部門にまで大きな影響を与えるが、その影響の大きさを理解せず、全く対応に動いていない場合が殆どである。
特にERP(企業統合基幹業務システム)の採用が遅れ、欧米のようにアド・オンによる拡張機能が充実したERPが少ない日本の環境では、相当なコストと時間が掛かる重荷となる事が予想される。

本稿では、その経緯を辿り、どのような事が今起こっているのか、その概略を説明する。
元々、欧州にはEU会計指令(2013/34/EU)が存在していた。
この指令を修正する形で“非”財務報告指令2014/95/EU (NFRD:Non-Financial Reporting Directive)が採用された。

この指令は、企業が開示する財務情報にESG(環境、社会、ガバナンス)情報を含める事が要求事項として追加された。ただし、対象は上場企業、保険会社、銀行、国に指定された公益団体や企業に限られていた。

その後2021年4月21日に欧州委員会が企業の「持続可能性報告指令(CSRD:Corporate Sustainability Reporting Directive)」を提案し、欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)が2022年を通じてこの提案を検討してきた。同諮問機関EFRAGは、上記の持続可能性報告指令の「具体的な基準」を定めた、『EU持続可能性報告基準(ESRS: European Sustainability Reporting Standards)』を発行し、企業が具体的にどのような基準で気候変動財務開示情報を作成すべきかの基準を示した。

例えば、一部ではあるがESRSでは以下のような事が求められる:
• エネルギー消費 (MWh 単位。合計の数値とその詳細なエネルギー消費量)
• エネルギー原単位 (MWh/金額単位の情報)
• 温室効果ガス削減量 (mtCO₂e単位)
• 製品、及びサービスにより回避された温室効果ガス排出量 (mtCO₂e)

これらを日々の業務の中で集計する為には、手作業ではとても対応できない。
ERPによる情報収集機能は必要不可欠である。
EU持続可能性報告基準(ESRS)の暫定運用は2023年から予定されており、義務化は2026年になる見込みである。対象は上場企業のみならず、一定規模の売上や従業員数のある大企業にまで拡大される。

これだけであれば欧州の出来事なので問題は無い。 しかし問題は、欧州以外の欧米先進国のほぼ全てが同じような指針を相次いで示している事である。

2021年末、気候変動財務開示情報の「国際基準」を定める組織として、国際財務報告基準(IFRS)財団は、「国際持続可能性基準委員会(ISSB: International Sustainability Standards Board)」を設立した。
同委員会は今後、各国・各地域で独自の要求事項を追加できる「ベースライン」の基準を作成する事を目的としている。
既に2022年3月には基準となる2つの草案を公開している。1つは「持続可能性関連財務情報の開示に関する全般的要求事項案」の草案(IFRS S1)であり、もう1つは「気候関連開示基準案」の草案(IFRS S2)である。

2022年3月には、米国証券取引委員会(SEC)も気候関連情報の開示規則案を提示した。この規則案の要求事項は欧州の要求事項と異なる部分も多い。これは米国がUS General Accepted Accounting Principlesを採用しており、国際財務報告基準(IFRS)を採用していない事が大きな要因と言える。同様にカナダのCanadian Securities Administrators(CSA)も規則案を提示している。

2022年4月には、英国で気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に沿った気候変動財務開示情報が法律で義務化され、一定以上の売上又は従業員数のある企業と上場企業は対応に迫られている。ニュージーランドでもClimate Risks and Opportunities Lawが採択され、2023年会計年度から法律に沿った気候変動財務開示情報が義務化される。

これら全ての基準やガイドラインは気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言、及びGHGプロトコル(Greenhouse Gas Protocol)を基本としているが、要求される分類や項目、単位や閾値は必ずしも共通ではない。

技術的には、「持続可能性」と「気候変動」の影響を各々の基準に沿って財務開示情報に加える事になる。これを全て現状の会計ソフトと手作業で行う事は困難であるだけでなくコストも掛かる。既にERPを採用している企業は、互換性のある炭素会計ソフトの導入も検討事項となる。欧米ではここ数年来、ERPと互換性のない会計ソフトの評価が下がる傾向にあり、米国で主流のPeachtree等はその1つの例と言える。Peachtreeは炭素会計ソフトではないが、拡張性の問題は基本的に同じである。
企業は、気候変動財務開示情報の基準に関して早急に理解を深め、対応を検討する必要に迫られている。
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